佐藤園子ピアノリサイタル 〜2011〜
 2011年10月21日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ ベートーヴェン  ソナタ Op.27 cis-mol  「月光」

作品27の1ではじめて見られたベートーヴェンの構成上の新しい考え、すなわち後期にしばしば表れる全曲の重心を終楽章におく楽章配列は、このソナタで見事な成果を示しています。しかも第1楽章を前奏曲風にして、そこで採用しなかったソナタ形式をフィナーレに置くことで作品のスケール感を広げています。
主調である嬰ハ短調にはさまれた中間楽章をエンハーモニック(異名同音調)変ニ短調で書くことによるロマン主義的調性選択が音声的コントラストと和声的統一感を達成しています。1801年に書き上げられたものです。





♪ ベートーヴェン  ソナタ Op.101 A-dur

ベートーヴェンが創作活動の後期に入ったのは1815年頃とされ、まずOp.102の2曲のチェロソナタが書かれ、続いて1816年の晩秋にこのピアノソナタが書き上げられました。この3曲にはいくつかの共通点があり、構成がかなり自由になってきて幻想的な雰囲気を漂わせています。しかも内省的で深みのある表現を志向しはじめていて、40代半ばのべートーヴェンは新しい道を求めつつありました。

・第1楽章<やや生き生きと、もっとも内的な感情を込めて>
第1主題の旋律は上昇と下降をくり返しています。冒頭左手の4度下に下降してくる半音階は、バロック時代にキリストの十字架をめぐる意味で用いられたラメント(嘆き)のモチーフです。

・第2楽章<生き生きと、行進曲風のデンポで>
1楽章とは対照的な行進曲風で確固とした性格ですが、中間部で一転して静かなカノンが現れます。

・第3楽章<遅く、憧れを持って>
カデンツをはさんで第1楽章の主題が回帰してきます。テンポを速めプレスト、次いでアレグロ<動きのあるテンポで、しかもあまり速すぎず決然と>と表示されていて、ソナタ形式とフーガが並ぶ構造をとっています。
第1楽章で表れた「ミサ」の「ベネディクトゥス」の旋律はこの第3楽章に挿入されています。
同じ主題がくり返し再考される開放循環形式で全楽章が統一されることをこのピアノソナタで試みています。




♪ リスト  コンソレーション (慰め) Nr.3


技術的な難曲を数多く作曲したリストの作品の中で、華麗な技巧がほとんど前面に出ていない内面的抒情的小品です。




♪ クライスラー=ラフマニノフ  愛の喜び/愛の悲しみ


クライスラー作曲のヴァイオリン曲で親しみやすいメロディが人気の2曲に、ラフマニノフらしい編曲がほどこされています。




♪ ショパン  ノクターン Nr.16 cis-moll


1830年にウィーンからショパンの姉に走り書きで送られたものですが、現在では夜想曲として広く知られています。




♪ ショパン  アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22

「スピアナート」という語は、イタリア語で「なめらか」という意味で、左手の16分音符の上に非常に優美な旋律がうたわれており、演奏効果の高いポロネーズが続きます。
このポロネーズの部分は、オーケストラの伴奏付きで作曲されていて、ショパンはこの曲を1985年パリで演奏していますが、現在ではピアノ独奏用として広く愛されています。








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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2012〜 20周年記念盤
 2012年10月19日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ ハイドン  ヴァリエーション f-moll

この変奏曲は、モーツァルトの死後書かれたもので、その影響がかなり残されています。テーマに出てくる符点のリズム(タッタタ)はドイツ語でリーベゴット(愛する神様)と同じアクセントを持ち、その意味を含んだシンボルで、祈りを込めた悲しみをたたえています。




♪ ショパン  スケルツォ 

もともと16cの頃にはおどけた内容を持つ軽い小品にこの言葉がつけられていました。しかし、ハイドンの作品等にその先例が見られ、ベートーヴェンの創意工夫、肉づけによってこの「スケルツォ」がトリオを持つ三部形式のユニークなものに変わっていきます。ショパンはスケルツォを4曲作っています。従来の作曲家たちの業績をしっかり踏まえながら、強烈な個性を持つものとして独立させ、全く新しい世界を開拓しました。それによってもとの要素は後退し、リズム的性格を残しながらも暗く緊迫したドラマティックな内容を大胆に持ち込み、スケール感を与えた意欲的なペンで書き上げています。

No.1 Op.20 h-moll
3拍子のプレスト コン フォコに左手は強いアクセントを持った2拍子型のリズムをはめ、その上を分散和音がかけまわります。中間部はくっきりとした対照をつけた素材でゆったりとした旋律が歌われます。これはポーランド民謡(子守歌 幼な子 イエス)によるものですが、突然不協和音でやぶられた後、再起していきます。

・No.2 Op.31 b-moll
4つのスケルツォのうちで最もよく知られ演奏されています。上昇する神秘的な弱音の3連符と対比する激しく爆発するような応答楽想が印象的です。第2楽想は分散和音に乗って甘美な旋律が歌われます。次に表われるコラール風のソステヌート楽想に導かれた表情をたたえた旋律は平坦にリズムと一体化していき、感情は高揚させられます。ショパン的転調が随所に見られ、作品に深みと大きさを与えています。




♪ ショパン  ノクターン Op.9 No.1 b-moll


シンプルな左手の分散和音の上に、愁いをおびた旋律が流れます。中間部で優美なオクターヴの旋律が表われ、和声的にも多彩さに富んでいます。



♪ ラフマニノフ  前奏曲 Op.23

・No.6 Es-dur
清らかな甘い旋律をラフマニノフらしい独特のハーモニーで響かせています。

・No.5 g-moll
前奏曲中最も有名な曲。マーチ風なリズムが歯切れ良く、重厚さを増していきます。中間部は愁いを含んだメロディが分散和音の流れる伴奏にのって豊かに歌われ、再びリズムの世界に戻り、頂点の後、短い走句で終わります。




♪ ベートーヴェン  ソナタ Op.57 f-moll 「熱情」


この頃、パリのエラール社からベートーヴェンに送られた最新性のピアノは当時としては信じられない広い音域を持ち、ペダルダンパーを備えていたので、作品は必然的にダイナミックレンジを大幅に拡大し、思い切った低音と高音の使用による、音色的多彩さを追求するようになりました。この作品はベートーヴェンの創作意欲が燃え盛った時期のピアノ音楽の最も重要な傑作として称えられ、ソナタ芸術の頂点ともいわれています。大きな感情を支えるためには、より精密な構造と大胆な形式が必要となり、その感情と知性の見事な均衡を持った作品です。

・第1楽章 Allegro assai
印象的なリズムで下行上行する第1主題のリズム動機が徹底的に用いられ、和声的対称により、響きの多彩な変化で有機的統一を計っています。この後に作曲されている「運命」の動機がたびたび現れ予感を導いています。

・第2楽章 Andante con moto
ベートーヴェンらしい迫力に満ちた両端楽章を結び、深い安らぎと慰めで対比を与えています。全体的な静けさの中で密度の増加と音域の上昇による高揚が計られ、鎮静化された後、解決せずアタッカで第3楽章に向かいます。

・第3楽章 Allegro ma non troppo
第2楽章の末尾からフィナーレの主題に流れ込んでいくブリッジ風な序。楽章の後半に反復が集中し、かっての古典形式で前半反復原則とされていることとは正反対につくられています。嵐が荒れ狂い、自然が語り、結論へと向かわせるベートーヴェン音楽は新しい問題提起でもありました。









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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2013〜
 2013年10月25日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ モーツァルト  ソナタ kv331 (300i) (トルコ行進曲つき) A-dur


・第1楽章 Andante grazioso
主題はgrazioso(優雅な)シチリアーノ風リズムの揺れる素直なもので、個性的な創意に満ちた6つの変奏がつづきます。

・第2楽章 Menuetto-Torio
ユニゾンの上声が装飾された堂々とした主題で始まります。トリオ(中間部)で再び両手が変奏する技法が巧みに使われてメヌエットがくり返されます。

・第3楽章 Alla Turka,Allegretto
アラトゥルカは「トルコ風に」の意味。分散和音が反復される中間部分が、ねり歩くトルコ軍の音楽隊の打楽器を模倣しています。




♪ ショパン  ワルツ Op.64 No.2 cis-moll

思いつめた表情の旋律から速度を速めた孤独な魂の踊りへ移行し、これら2つを主部とする三部形式です。中間部は深い情感をたたえてうたわれ、ショパンらしいワルツの傑作です。




♪ ショパン  ワルツ Op.(post) e-moll


独特の激情がほとばしる華麗なワルツです。中間部では柔らかな旋律にうつり、コーダもドラマティックです。




♪ ショパン  マズルカ Op.50 No.3 cis-moll


望郷の念を込めた旋律が声部を変えて絡み合いくり返します。第2楽想は決然たる語調で奏され、また最初のモチーフに戻り、なだらかな旋律で再びもとの楽想に帰ります。転調による発展部の後、冒頭楽想をふくらませて終結へと巧みにまとまめられ、一篇の叙情詩のような長大で独特のマズルカです。




♪ ショパン  舟歌 Op.60

「舟歌」とはバルカローレを訳した言葉です。もとはイタリアの水の都ベニスの運河を渡るゴンドラの船頭たちが舟こぎの時にうたっていた歌から派生してきたといわれています。ふつうは8分の6で、波に揺られる舟の動きをあらわすリズムを伴奏に用いていて、多くの作曲家がバルカローレを手掛けています。ショパンのバルカローレは8分の12でそのリズムを借りながら、内容は船頭らの陽気な舟歌というものではなく、いかにもショパンの晩年らしく、構成はきわめて精密です。和声の内省的な美しさに満たされながら、旋律は手のこんだ発展を見せてコーダを迎えます。即興的でありながら基礎の堅固な造形で、ピアニスティックな傑作として親しまれています。




♪ ムソグルスキー  組曲<展覧会の絵>


展覧会の絵はそれぞれに標題を持つ10曲の小品と、その間に挿まれた間奏曲(プロムナード)からなっています。これはムソグルスキーが展覧会の絵から絵へ移動することを示すだけでなく、「展覧会の絵」という作品全体を効果的な鎖で結びつけることにも成功しています。ムソグルスキーは、これらのプロムナードのそれぞれには自分の様々な表情が写っていると言っていたそうです。この作品が、親友ヴィクトル・ハルトマンへの追悼を込めて作曲されたことはよく知られています。ハルトマンは1860年代のロシア美術界での新しい動きの旗手となった建築家であり画家でしたが、1873年、30を過ぎたばかりの若さで世を去りました。
ムソグルスキーも「ロシア五人組」で国民主義を押しすすめていたため共通する芸術観を持っていました。遺作展が翌年の春で、およそ400点にのぼる水彩画、スケッチ、デザイン、建築設計図等が展示され、改めて深い悲しみを受けたムソグルスキーは数週間のうちにこの作品を書きあげています。あふれ出る熱情のおもむくままに書き綴られ、「五線紙の上になぐり書きする時間ももどかしい」という作曲者の言葉がその事情を物語っています。ピアノによる形がオリジナルですが、ラヴェルが管弦楽用に編曲した版でもよく聴かれています。

・プロムナード ー こびと
奇怪な小人(地の精)が脚を引き擦って、落ち着きなくグロテスクに歩き廻ります。両手のユニゾンが重用され重量感のあるカノンも聴かれます。

・プロムナード ー古い城
中世イタリアの古城の夜景で吟遊詩人の歌が聞こえます。固執低音が鳴りつづけ、リズムはシチリアーノの舞曲風で、遠くものうげな雰囲気をかもし出しています。

・プロムナード ー チュイルリーの庭 ー
「遊んだ後の子どものけんか」と副題がついています。パリにあるチュイルリー公園で子守がおしゃべりや編物に興ずる傍ら、気紛れに戯れる子供達を表しています。

・ビドロ
大きな車輪のポーランドの牛車が重々しくゆったり近づき、また去っていきます。重層した左手の和音の上に哀感を持った旋律が歌われます。

・プロムナード ー 殻をつけたひなどりの踊り
バレエ「トリルビー」の衣装画を題材とした音楽。かえったばなりのヒヨコが、まだ卵の殻を身につけたまま無邪気に跳び廻ります。

・サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
太った金持ちのユダヤ人と痩せた貧乏なユダヤ人との、会話と口論の絵に関連づけられています。

・プロムナード ー リモージュの市場
市場の雑踏と女たちの早口の口論。頂点で休みなく次の音楽になだれ込みます。

・カタコンブ
カタコンブとはローマ時代の地下墓地(古代ローマ時代のキリスト教徒の葬られた墓)。後半には「死者と共に死者の言葉を持って」と記されていて、左手にプロムナードのモチーフが聴こえます。重厚な暗闇の中に一条の光のようなものも感じられます。

・バーバヤーガの小屋
原画はロシア風の時計のデザイン画で、ロシア民謡の妖姿バーバガーヤの小屋が奇怪な鶏の脚の上に建っています。うすと箒木にまたがって空を飛び回る魔女のイメージを描いています。

・キエフの大門
キエフに建てられることになっていた市の勇者・アレクサンドル2世を記念した大門の設計デザイン画による終曲。古代ロシア風の荘重で壮麗な門に陽の光に映える丸屋根。コラールや教会の鐘の音も交え、栄光をたたえる聖歌が流れる壮大なフィナーレです。






 




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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2014〜
 2014年10月17日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ モーツァルト  ロンド kv511  a-moll

・物思いにふける様な寂しげな情感に満たされています。ゆったりとしたシチリアーノ風付点リズムで進められ、ロンドのテーマが再現されるごとに感情を盛り上げる入念な装飾と変奏がほどこされています。




♪ モーツァルト  ソナタ kv330(300h) C-dur

古典的端正さとフランス風ギャラントな性格、明るく愛らしい外形の中に充実した音の坐りとピアニズムの巧みさを持つ、モーツァルトの代表作の1つです。

・第1楽章 Allegro moderato
第1主題に盛られた工夫が伸びやかで精微な魅力となり、その後生気を持って上昇する分散和音がつづきます。ニュアンスの違うパッセージを巧みに重ねて華やかに織りなしてゆきます。

・第2楽章 Andante cantabile
平和で美しい旋律を持った主部と、ヘ短調の中間部から成る三部形式です。簡素な中にニュアンスのある陰影がつくられ、モーツァルト独特の世界と宇宙観が表れています。

・第3楽章 Allegretto
軽快で弾むようなロンド形式で、2つの主題の反復にきめ細やかな変奏がされています。




♪ ベートーヴェン  ソナタ op.90 e-moll


・第1楽章 Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck
「生き生きと徹底した感情を込めて」とドイツ語で表記されています。凝縮した響きとドラマ性を持つ開始リズム動機が、統一素材として機能しています。

・第2楽章 Nicht zu geshwind und sehr singber vorgetragen
「速すぎず十分に歌うように」と指示されています。声楽的旋律がうたわれ、しみじみと情緒ある温もりをたたえています。




♪ メンデルスゾーン  (無言歌集)より 「ヴェネツィアの舟歌」
                     Op.30 Nr.6/Op.62 Nr.5/Op.19 Nr.6


言葉の無い歌曲集全48曲の中で「ヴェネツィアの舟歌」と名付けられた作品が3曲あります。イタリア、ベニスの波間に揺れるゴンドラの動きを表現するためにいずれも6拍子をとっていて、悲歌風な趣きのあるものです。




♪ シューマン  カーニバル Op.9

シューマンの作品には創作の根源に文学的でユニークな発想を持つものがあり、文学か音楽の道かと選択に悩んだ時期もあった程の彼の素養の豊かさを表しています。これは、シューマンの空想による理想の音楽を求める団体(ダヴィット同盟)のメンバーである様々な登場人物とキャラクター達によってカーニヴァルが展開され、最後にはその同盟員がそろって、俗悪なる音楽の擁護者フィリステン達を討つべく行進をはじめるという筋書きでつくられた組曲形式のものです。
当時の彼の恋愛事件にかかわった美少女、エルスティーネの故郷、ボヘミアの町Asch(アッシュ)の名前を音符におり込んでいて、25才のシューマンの多感な若々しさと推進力にあふれています。

・第1曲 「前口上」 力強く華やかなカーニヴァルの幕開けです。

・第2曲 「ピエロ」 性格の対比が効果的に現れて、おどけと皮肉の混じった喜劇的情景をあらわしています。

・第3曲 「アルルカン」 前曲と同様に16c?18cのイタリア即興喜劇に出てくる楽天的でものごとにこだわらない若者の役の名前です。

・第4曲 「高貴なワルツ」 初めと終わりにワルツの律動を刻んで踊り、中間で豊かな情感を描いています。

・第5曲 「オイゼウス」 シューマンの二面的な性格から生まれた分身の1つで瞑想的内省的な架空の人物

・第6曲 「フロレスタン」 オイゼウス同様ダヴィット同盟の指導的立場にいる人物という設定で、行動的積極的な性格を持つ彼のもう1つの分身です。

・第7曲 「コケット」 リズムの巧みな使用で微妙に表情づけをして女性のコケットリーな可愛らしさが登場します。

・第8曲 「応答」 前曲と共通の素材で一対の流れの様に聞こえますが、コケットの短い答えとしてつくられています。

・第9曲 「パピヨン」 蝶が羽をパタパタさせて飛んでまわるイメージで現れます。

・第10曲 「ASCH-SCHA 躍る文字」 ASCHの音符がはねて踊り出します。

・第11曲 「キャリーナ」 後のシューマンの妻クララのイタリア読みの愛称で、すでにこの作曲の途中でのクララへの想いが感じられます。

・第12曲 「ショパン」 シューマンはショパンのことを天才と称し、彼の作品を世に紹介しています
。ショパンの夜想曲のスタイルを真似てその特徴を消化したモニュメントです。

・第13曲 「エストレラ」 この曲をつくるきっかけとなったエルスティーネの愛称です。ひととき燃えたシューマンの情熱を回想するかの様です。

・第14曲 「再会」 ASCHの音符による動機が、はずむ様な喜びの表情ではじまる恋人との再会です。

・第15曲 「パンタロンとコンビィーヌ」 パンタロンとはイタリアの即興喜劇に登場する、靴下とズボンが1つになったものを着ている商人の道化役で、コロンビィーヌはその恋人です。

・第16曲 「アルマンド風ワルツとパガニーニ」 ドイツ、アルマンドの地方色の強いワルツにはさまれ、中間には当時のヴァイオリンの鬼才、パガニーニの技巧を華麗にとり込んで巧みな対比を出しています。

・第17曲 「告白」 終盤に入り、シューマンらしい魅惑的なロマン味がわずか12小節の短い小品となってあらわれてきます。

・第18曲 「プロムナード」 彼のロマンティシズムは、更に恋人達の夢見る歩みをうつし出します。

・第19曲 「休息」 いわゆる休みという感じではなく、終曲につなげる序奏の役割で、第1曲と同じフレーズを使い、エネルギーの高まりを呼び起こしています。

・第20曲 「フィリスティンと対抗するダヴィット同盟員の行進」 そのままASCHの音型による力強い動機ではじまるフィナーレに入ります。ダヴィデは「正義の騎士」フィリスティンは「俗物」。ダヴィット同盟というのは旧約聖書に出てくる羊飼いダヴィデが異教徒フィリステルと闘ったという故事に基づくもので、ここでは俗悪な音楽家たちを討伐するために、シューマンともども同盟員がそろって行進するという場面として華麗にしめくくっています。








 




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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2015〜
 2015年9月25日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ ショパン  ワルツ

ショパンは1810年にポーランドのワルシャワに生まれ、39才の時にパリでこの世を去りました。その短い生涯の間で200曲以上ものピアノ曲を書き「ピアノの詩人」といわれています。
ショパンのワルツは、ノクターンと並んで彼を世(特にパリの楽壇)に出したジャンルとして特筆されます。当時はヨハン・シュトラウスのつくり上げたワルツのスタイルが大流行していましたが、ショパンは独自の、デリケートで洗練されたピアノ芸術作品としてのワルツを20曲残しています。

第1番 変ホ長調 op.18<華麗なる大円舞曲>
全ワルツの中でショパンが最初に出版をした曲だけに、一貫して華やかなサロン的雰囲気に満ちています。序奏の後、5部からなる部分で構成されています。

第2番 変イ長調 op.34-1<華麗なる円舞曲>
やや眺めの序奏と6つの部分を、力強いコーダがしめくくっています。構成の構成の大きさの中に線の太い音楽性が貫かれていて<華麗なるワルツ>と呼ばれるにふさわしい内容です。

第3番 イ短調 op.34-2<華麗なる円舞曲>
低音で嘆くような冒頭の旋律から、移ろいゆく憂愁の情がかもし出されていきます。これも<華麗なるワルツ>と名づけられています。

第4番 ヘ長調 op.34-3<華麗なる円舞曲>
コロコロと軽快で華やかな調子で書かれ、<小犬のワルツ>に対して<猫のワルツ>と通称されています。

第5番 変イ長調 op.42
3拍子に2拍子のメロディーが複合的に組み合わさっています。曲は主に4つの部分から成り、ていねいに書かれたコーダで効果的に終結していきます。

第6番 変ニ長調 op.64-1<小犬>
恋人ジョルジュサンドの犬が自分の尻尾でじゃれている様子を描いた、というエピソードを持つワルツです。

第7番 嬰ハ短調 op.64-2
思いつめた旋律の後に、速度をはやめた孤独な魂の踊りのような回転があらわれては消えて、次いで転調して憧れをつづる様なうたになります。いかにもショパンらしい味わいのあるワルツです。

第8番 変イ長調 op.64-3
簡素なモチーフを軸として組み立てられ、中間部では、左手に移った旋律が転調と供にニュアンスのある表情をたたえてうたわれます。

第9番 変イ長調 op.69-1
<告別> (遺作)
恋人マリア・ヴォジンスカとの別れの際に作曲されて、その後彼女が<別れのワルツ>と名づけて愛奏したといわれています。優美でそこはかとないデリケートな感情がつづられています。




♪ ショパン  バラード 第1番 ト短調 op.23

文学上の用語、バラードは、叙事詩と叙情詩に加えて物語性を持たせた詩のことで、それに音楽をつけることは古くからおこなわれてきました。ピアノ曲として真の存在を与え、この分野を開拓したショパンによって、バラードは永遠の意味を持つことが出来る様になったといわれ、全4曲の作品がつくられています。この第1番の静謐で郷愁に満ちた8分の6拍子の主題のはじまりは、印象的で物語風な悲哀をもたらします。第2主題で、これは魔法を解かれたかのように開かれて、朗々としたものとなっていきます。再現部では両主題は入れ替わって、内的葛藤と疾風のごとく駆け巡る音階を経て、終結部では炸裂する情熱が現れてきます。




♪ ショパン  ポロネーズ 第3番 イ長調 op.40-1 <軍隊>


ポロネーズはポーランドを代表する3拍子の民族舞曲です。ポーランド宮廷の行列行進や儀式で演奏されたものが、国民の間に浸透するにつれて英雄的騎士的性格を持ち、愛国的精神をもあらわす様になりました。ショパンの才能は、ポロネーズに音楽史上確固たる意味づけと位置をもたらしました。この<軍隊ポロネーズ>はショパンの16曲のポロネーズの中でも<英雄ポロネーズ>と供に親しまれ、歯切れの良い決然とした力強さを表しています。




♪ ショパン  ソナタ 第2番 変ロ短調 op.35 <葬送>


ショパンが29才の時の作品です。第3楽章の葬送行進曲は完成より2年前に書き上げられていて、この行進曲を考慮しながら全体を構成したものと考えられます。それぞれに独立しうる様なはっきりとした個性を持つ4つの楽章であらわされています。

・第1楽章:グラーヴェ/ドッピオ・モヴィメント
劇的な減7度の下降ではじまる4小節の冒頭の後、速度が2倍に速められています。激情的性格の第1主題と、平和で穏やかなコラール風の第2主題が交錯して表れ、鮮やかなコントラストで緊張した楽句が続きます。

・第2楽章:スケルツォ
雷鳴に駆り立てられる様な躍動的リズムのスケルツォが直情的性格で始められ、中間部ではこの緊張から解放される様にショパンの気高く優美な抒情性が憩いをあたえています。この楽章の末尾にこの楽句は表れてきます。

・第3楽章:葬送行進曲;レント
広偏と永遠を感じる葬送行進曲が進み、中間部では慰めの様な束の間のやさしさが対比しています。再び主題は反復されて遠のいてゆきます。

・第4楽章:終曲;プレスト
終楽章としては異例な程小規模につくられています。変転する和声が雲の中、あるいは荒涼とした砂漠の中を遠く木枯らしがうず巻くかのごとくユニゾンで駆け抜けていて、不可思議な謎を持つ最終章で幕は閉じられてゆきます。









 




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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2016〜
 2016年10月7日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ モーツァルト
    「ああ お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲
    (きらきら星変奏曲)  K.265(300e)Cdur


この曲の主題になっているのは、恋人を想う気持ちを娘が母親に打ち明ける内容のフランスのシャンソンで、作者は不詳です。
1770年からパリで歌われていたものが日本に渡り、「きらきら星」又は「ABCの歌」、の童謡として親しまれるようになりました。
可愛らしく素朴なテーマから、1つ1つの個性に富んだ性格の変奏曲が幅広く展開されていきます。




♪ ショパン   マズルカ op.33 Nr.4 hmoll
          マズルカ op.33 Nr.2 Ddur

マズルカはショパンの故郷ポーランドの民族舞曲で、農民たちの踊りから興ったといわれています。
主に三拍子で、第1拍に付点リズムと、3拍目あるいは2拍目にアクセントを置くことが多いのですが、様々な要素がからみ合っています。この舞曲はショパンのデリケートな感性で新たな存在の光が与えられ、情致なピアノ小品として58曲がつくられています。
このop.33は1837年から翌38年にかけて作曲され、もっとも情感にとんでいて、楽曲としてもすぐれているといわれています。
Nr.4はマズルカとしては大規模で叔情的なバラードの様な内容を持っていて、演奏されることも多い作品です。
Nr.2はのびやかな明るさを持ち、歌詞をつけてうたわれていたといわれています。




♪ ショパン  ノクターン op.37 Nr.1 gmoll


ショパンのロマンティシズムの代名詞として知られる21曲の夜想曲の中で、静かな哀切に満ちた1曲で、コラール風な中間部をはさんでいます。




♪ ショパン  バラード 第4番 op.52 fmoll


傑作ぞろいのショパンの4曲あるバラードの中でも特にすぐれた内容を持つものとして評価が高いのが、この第4番で、円熟期の作品らしい風格と密度を持っています。
一応ソナタ形式をとってはいますが、とらわれることなく自由に書かれています。
ためらいがちな序奏の後、複雑な影を持つ情感の第1主題がたくみな和声と織り合い、次いで第2主題が、やわらかな光と共に祈りの様に表れてきます。これらが再現され、目まぐるしく変奏されてカノン風に処理されたり、幻想的な付加部を加えて盛り上がっていきます。
一瞬の静けさの後、波乱に満ちたコーダを迎えて幕を閉じます。




♪ ドビュッシー  <子どもの領分>より 「ゴリウォーグのケークウォーク」

ドビュッシーが一人娘エンマの為に書いた、6曲からなる作品の最後の曲。
「ゴリウォーグ」とは黒人の人形。「ケークウォーク」とはアメリカの黒人音楽に基づくダンス>を意味していて、ユーモラスに踊ります。




♪ ドビュッシー  <ベルガマスク組曲>より 「月の光」

ドビュッシーの作品の中で、一番広く人々に愛好されている幻想できな曲。




♪ ドビュッシー  <版画>より 「雨の庭」

1903年に完成された3曲構成の作品中、最後の曲。デリケートなアルペジオが、庭の木立ちに降りかかる雨を描きます。
古いフランスの民謡「幼な児よ眠れ」「私たちはもう森へは行かない」の2曲が、主題に引用されています。




♪ ガーシュイン   ラプソディ・イン・ブルー

有名なオーケストラとピアノの為の「ラプソディ・イン・ブルー」のオリジナルソロ版。
ガーシュインはこの「ジャズ語法による狂詩曲」を世に送り出し、クラシック界でも注目される存在となりました。
強いシンコペーションリズム、様々な人種の行きかう都会の雑踏、おなじみのメロディに次いで、アメリカの新天地を思わせる希望的な広がりのあるテーマが表れます。
この曲はアメリカ的な芸術音楽の代表格とされると共に、多くの人々に幅広く親しまれ、愛好されています。




♪ アストル・ピアソラ   ブエノスアイレスの夏


アルゼンチンの作曲家アストル・ピアソラの作曲した曲。









 




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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2017〜
 2017年10月27日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ J.S.バッハ/C.グノー  平均律クラヴィーア曲集 第1番 第1巻
   <プレリュードとフーガ>より   「プレリュード」  「アヴェ・マリア」


      

バッハの平均律はクラヴィーア鍵盤の1オクターヴ内の長調・短調、すべての調性によってプレリュード(前奏曲)とフーガを1組とした24曲をまとめた2つの曲集です。ベートーヴェンの32曲のピアノソナタが「新約聖書」と呼ばれるのに対して、平均律クラヴィーア曲集には「旧約聖書」の尊称が与えられています。グノーは宗教音楽を生涯を通じて書き続け、「アヴェ・マリア」と題して、敬愛してやまなかったバッハの1番のプレリュードを伴奏に用いた歌曲をつくりました。G-durに転じて作曲されていますが平均律の1番はC-durから始められています。バロック時代にはそれぞれの調性が持つ独自の個性や情趣が大切にされていて、ハ長調はあらゆることの始まりであり終わりでもある安定と調和を表す調と位置づけられていました。あらゆる作曲家に大きな影響を与えたバッハの音楽ですが、特にショパンは大変熱心に勉強したといわれています。




♪ W.A.モーツァルト   ロンド  Kv.485 D-durl  Kv.511 a-moll

「ロンド」とは主題を何度も回帰させ、その間にエピソードとなる副主題をおいて変化を添えた古典音楽の形式です。この曲は右手に軽快で愛らしい旋律が奏され、快活な喜びに満ちています。巧みな転調を重ねながら主題を展開し、華麗なパッセージを挿入してすすんでゆきます。




♪ W.A.モーツァルト   ロンド  Kv.511 a-moll


軽やかで明るい前曲のロンドに対して物思いにふけるような寂しい情感で書かれています。ゆったりとしたシチリアーノ風付点リズムの嘆きではじめられ、半音階進行と細やかな装飾で緊張が高まります。天上的慰みを感じさせるイ長調の後にテーマが再び現れ、コーダで静寂に結ばれます。




♪ L.V.ベートーヴェン  ピアノソナタ op.31 d-moll 「テンペスト」


シェイクスピアの戯曲<テンペスト>(嵐)が介在しているという説があり、愛称<テンペスト>の名で知られるようになりました。シェイクスピアによれば、第1楽章はミラノ王とその召使いの(空気の精)との魔術的やりとり。度々出現する分三和音動機は魔法のハープにたとえられています。第2楽章はその王の娘と邪悪な後継王の息子との愛の語らい。第3楽章では魔法で起こされた嵐の情景として解釈されています。激しい感情や強いドラマ性からは人生の嵐を連想させられ3大ソナタと並んで広く愛されています。

第1楽章 Largo-Allegro
激しい緊張と弛緩が対立しつつ共存しています。ソナタ形式の枠の中ではこれまでになかったものを生み出そうとするベートーヴェンの強烈な意志が姿を現します。

第2楽章 Adagio
前楽章と同様に、低音部から起こる分三和音で開始を告げます。低音に呼応するように高音が語らい、ベートーヴェンの中期にみられる文学との接近を感じらさせられます。

第3楽章 Allegretto
ベートーヴェンは若い頃からカントの哲学に影響を受けていて、彼の文庫に収められていた<天界の一般自然史と理論>の中には「超越者の創造意図にしたがっているが故に、この世界は美しい秩序をとるものである」と記されています。ベートーヴェンの生きた時代のヨーロッパは、フランス革命やナポレオン戦争、メッテルニッヒ
体制等、在るべき真の美しい世界から程遠いものでした。彼個人の、また彼を包み込む社会的な在ってはならない危機・苦難を是正すべく、その現実と向き合うが故にベートーヴェンの音楽の情調は悲劇的となり、その高揚した気分は激しい表出をもたらしながら、他面では神の恩寵に満たされた真に美しい世界を見出すべく歌いゆかせました。歌いかけることによって音楽の真なる世界には創造のはじまりがもたらされます。歌うことは見出すこと。その見出しつつあるもの、音と音のつながりと組み合わせを思索し、構築することは、ベートーヴェンにとって在るべき真の世界への追求と思索を意味していました。



♪ F.ショパン  エチュード op.10

エチュード(練習曲)とは文字どおり、いろいろな側面での演奏技術を向上させることを目的としたもので、特に19世紀のはじめから中期頃に渡り、技術的な水準向上のための練習曲が洪水のように作曲されました。そういった中でショパンは、練習用という要素とそれを超えた音楽内容をピアノの詩人らしい独特の感性で結びつけています。ショパンのエチュードは、ピアニストに必要な技術を網羅したテキストとして、また独立した1つの芸術作品としても強靭な存在を放つ、ピアノ音楽の傑作とされています。

Nr.1 C-dur Allegro
左手の英雄的オクターヴの響きの上に、右手の急速な分三和音が駆け抜けます。

Nr.2 a-moll Allegro
右手の3-4.5の指で弾く半音階が、内声と左手のリズム上で入り組んだ感情を表現しています。

Nr.3 E-dur Lento ma non troppo
「別れの曲」という愛称でひろく知られています。美しい旋律に内声と左手の柔らかな伴奏が入り、中間部では対照的な性格が現れる形式をとっています。

Nr.4 cis-moll Presto
無窮動風な激しい性格を持つ曲で、前曲との対照を持つ配列になっています。

Nr.5 Gis-dur Vivace
右手が黒鍵ばかりで弾くので「黒鍵のエチュード」と言われています。

Nr.6 es-moll Andante
やわらかな情感と巧みな転調で、ものういような憂いをおびています。

Nr.7 C-dur Vivace
右手の3度と6度を交互に弾き、曲想を多彩にしています。

Nr.8 F-dur Allegro
左手が旋律を弾き、右手は広い音域を雄弁に駆け巡ります。

Nr.9 f-moll Allegro molto
分三和音にのって、右手が切なげな旋律を繰り返します。

Nr.10 As-dur Vivace assai
和音・重音をデリケートな感性でメロディックにつなぎあわせて、リズムとアクセントに工夫をこらしてつくられています。

Nr.11 Es-dur Allegretto
左右両手のオクターヴの幅広いアルペジオの連続によって典雅にうたわれています。

Nr.12 c-moll Allegro con fuoco
<革命>の名でひろく知られた作品で、左手で上下する音階を奏し、その上に右手のオクターヴ劇場的な旋律を鳴らします。



            



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 佐藤園子ピアノリサイタル 〜2018〜
 2018年10月12日(金)   新潟市音楽文化会館






<プログラム解説>



♪ L.V.ベートーヴェン   ソナタ op.27 cis-moll 「月光」

第1楽章 Adagio
<幻想曲風ソナタ>のタイトルを持つこの作品は「レマン湖の水面に揺れ動く月の光のようだ」と後にロマン派の詩人ルードヴィヒ・レルシュタープに語られたことから「月光ソナタ」の愛称で知られるようになりました。主和音の分散動機のなかに、静かな主題が前奏曲風にうたわれます。

第2楽章 Allegretto
主調である嬰ハ短調による両端楽章に対し、異名同音の変ニ長調でトリオを持ったメヌエットを書くことによって音名と性格的コントラスト、和声的統一感を出しています。

第3楽章 Presto aditato
「ほの暗いメランコリーをたたえた第1楽章、穏和な第2楽章を通して全くフォルテの表示が無かった後に、激しい動きの終楽章でクライマックスをつくっています。ベートーヴェンならではの追込みの面白さと尻上がりの配列効果が凄まじく、スケール感を達成した作品となっています。冒頭の分散主和音の上行による激しい主題は第1楽章の伴奏形と密接な関連を示し、旋律的な第2主題の提示の後に、8分音符和声の連打の形で緊迫感に富む3つ目の主題があらわれます。コーダは大きく拡大され、減七のアルペジヨ以降に2つの主題を織り込んだ変化に富む終結が置かれ、その即興的性格が<幻想風ソナタ>の特徴をはっきり示して力強く曲を閉じます。




♪ W.A.モーツァルト   ソナタ  KV570 B-dur

第1楽章 Allegro
主題の発展、冒頭モチーフの多角的発展を内蔵しています。35年で生涯の幕を閉じたモーツァルトは「この世の旅人」といわれ、それは彼の音楽そのもののようでもあります。ピアノ曲では歌唱性に富むイタリア音楽の本質と、人間的感情の入る余地のない、鍵盤音楽特有である音階、アルペジヨ等の技術の機械性、無機質性とが美しい流れの中で融合し、非現実ともいえる宇宙性をつくりだしています。また、音楽に対する基本姿勢は作曲家の代表的分野にも見出されています。モーツァルトのオペラ作品には特にその天才性が放たれていて、ソナタの第1楽章にはオーケストラの様子、第2楽章にはアリア、第3楽章にはフィナーレの情景がたびたび表れてくるといわれます。

第2楽章 Adagio
冒頭の呼びかけはモーツァルト特有の澄み切った雰囲気をたたえています。多声的で、半音階的進行と転調の対照性はオペラの舞台転換や照明変化を思い起こさせます。

第3楽章 Allegretto
シンコペーションのリズム、連打音とスタッカートの連続からは楽器を超えたコロラトゥーラの重唱、ソプラノとバリトンの至福の歌が聴こえ、歌唱法の息吹が感じられます。




♪ メンデルスゾーン  「無言歌集」より


メンデルスゾーンが旅先から知人たちに送った小品を<歌詞を持たない歌曲集>という原題で49曲にまとめたものと言われています。

op.19 Nr.1 E-dur 「甘い思い出」
内声の分散和音の伴奏の上で甘美な旋律がうたわれます。

op.67 Nr.6 E-dur 「子守歌」
愛らしく子供を揺するようなリズムに乗って甘い夢心地に誘うような旋律が変化してゆきます。




♪ リスト   愛の夢 (3つの夜想曲) 第3番l


<できる限り愛せ 時はあまりに早く過ぎ行く>によりリスト自作の歌曲を自らピアノ独奏用にパラフレーズしたものです。ショパンの死の翌年に作曲され、追悼の気持ちで《3つの夜想曲》という表題をつけたともいわれています。




♪ リスト   コンソレーション (慰め) 第3番

技巧的難曲を数多く作曲したリストですが、その華麗な技巧のほとんどが前面に出ていない秘やかな叙情詩的小品です。




♪ リスト   <パガニーニによる大練習曲>より 「ラ・カンパネラ」

20才の時パリでヴァイオリニストで作曲家でもあったパガニーニの演奏を聴いたリストは、その超人的技巧と表現力に圧倒され「私はピアノのパガニーニになる」と言ったと伝えられます。後、ピアノの超人的名手となり数々の難曲をつくるようになりましたが、パガニーニのヴァイオリン曲を編曲し、<パガニーニによる大練習曲>として6曲出版しています。その中でもラ・カンパネラは鐘の音を模倣した手主題の変奏が、ピアノの響きによって一層ブリリアントで演奏効果の高いものとなりました。




♪ リスト   <3つの演奏会用練習曲>より 「ため息」

<演奏会用練習曲>も演奏技巧練磨の練習曲に止まらず、リスト独自の音楽表現がフルに盛り込まれた芸術作品です。この「ため息」は3曲中最も演奏される機会は多く、繊細なアルペジヨを縫って、印象的な主題旋律が左右の手の交差をしながら浮き上がります。




♪ リスト   ハンガリー狂詩曲 第2番

リストが生まれたのはオーストリアの国境に近いハンガリーのライディングという小さな村で、彼は子供の頃からハンガリー・ジプシーの音楽に興味を持っていました。ハンガリー・ジプシーの代表的なものは<チャルダーシュ>といわれる舞曲で、<ラッサン>という荘重な部分と<フリスカ>という激しいリズムの急速な部分から出来ていて、ラッサンはハンガリー人特有の哀愁を、フリスカは情熱を表すものとされています。リストの19曲のハンガリー狂詩曲はこの形式を使われているものが多く、その中でもこの第2番は最も人気の高い作品です。曲は序奏に続いてラッサン、さらにヴィヴァーチェのフリスカへと、華麗でめまぐるしい変転をしてゆきます









 




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